
経営者の情報源 北法人会ビジネスニュース(2008年12月号)
若手の方々を対象にした経営戦略セミナーを行っています。経営者や経営幹部を対象とした戦略セミナーを行うことは少なくありませんが、若手向けの戦略セミナーでは経営者とは違ったリアクションがあるので私も楽しみにしています。
そのセミナーで、経営理念について話をしている時に、受講者に経営理念を見たことがあるか、知っているかを聞いてみました。
受講者の年代は20〜30代でしたが、半数を超える方が「経営理念を見たことも、聞いたこともない」というのです。
中には、クレド(リッツカールトンで有名になりましたね)がある会社や経営理念を朝礼の場で唱和している会社もありましたがごく少数でした。
そこで、朝礼で理念を唱和したことがあるという方に、その時どのように感じたかを聞いてみました。すると「形式的だと思った」「仕方なくやっていた」などの発言がありました。
経営理念を唱和するとは、本来「共通の価値観を組織に浸透させる行為」であるはずですが、この取り組みを形式的に行っている会社がいかに多いかということです。
また、先日お会いした経営者のAさんは、「経営理念を毎日朝礼で唱和しているが、最近違和感を感じている」と言い、見直しの必要性を痛感しているそうです。
話しを聞いてみると、ここ数年会社の業績が低迷しており、会社の現状が経営理念に書いてある状況と違った状況になっているからだというのです。
会社で起きる問題の多くは、共通の価値観の不在によって起こるケースが少なくありません。
これは、企業が成長・発展するために欠くことのできない7つの要件です。頭文字がSで始まることから7Sモデルとも言われています。

@共通の価値観、A事業戦略、B組織スキル、C組織体制、D運営システム、E人材、F企業文化です。
7つのSの中核となるのが共通の価値観です。共通の価値観は経営の中核にあり、他の経営要素に影響を与えています。
会社に一歩足を踏み入れた時に感じる雰囲気、風のようなものを「企業文化」と言います。「企業は人なり」という言葉がありますが、企業文化は会社で働く人の心が表に現れたものですから、人の心次第なりで企業の行動パターンは形作られます。
その人(人材)に影響を与えるのは会社の「運営システム」です。計画の立案、役割分担、業務オペレーション、人事評価制度など社内のマネジメントシステムが該当します。
運営システムは、組織形態や責任と権限など「組織体制」による影響があり、組織体制は経営資源や中核能力等の「組織スキル」から、組織スキルは「事業戦略」の影響を受け、さらに事業戦略は「共通の価値観」によって規定されます。
会社の中で問題が発生した場合、真っ先に問題が見えてくるのが企業文化です。問題がある会社は会社に一歩足を踏み入れると雰囲気で何となくわかるものです。
問題の根っこをたどっていくと、最終的には共通の価値観に辿りつきます。
つまり、企業において問題が見えてくる順番はFEDCBA@となります。この順番は問題が見えてくる順番です。
では、問題を解決する場合の順番も同じでしょうか?
今度は、@ABCDEFの順番になります。共通の価値観から解決しなければなりません。解決する方向が逆になってしまうと、もぐらたたきゲームのように叩いても叩いても問題が消えることはありません。
つまり、共通の価値観=理念が曖昧な企業は下位の概念はすべて“ボロだ”ということになるのです。
ここで私が申し上げている共通の価値観=理念とは、書店に行って「経営理念事例集」を買い求めてきて「これがよさそうだからわが社はこれでいこう」と言うノリで作るようなものではありません。
経営理念とは、企業の存在意義を示す創業の精神です。経営者が会社の立ち上げの時の想いを振り返りながら作り上げるものであり、さらには利害関係者や社員、そして地域社会に対してどういう経営スタンスであるべきかを考えぬいて生み出したものが経営理念です。
他社と違いのない“横並びの理念”に意味はないのです。
食の安全を脅かすような問題が後を絶ちませんが、つい最近も農薬に汚染された事故米が転売されていたとか、メラミンという有機化合物が子供の粉ミルクに混入していたとか、報道されていました。共通の価値観の不在によって執り行われた経営がいかに舵取りを誤るかは今さら申し上げるまでもありません。
世間体によさげな“耳障りのいい理念のコピー”をどこからか持ってきて、社長室の額に飾っても本筋からはずれている訳ですから、それは単なる記号ということです。
これも最近話題になっているキーワードですが「名ばかり管理職」を生むような経営のあり方は、会社で働く社員を疲弊させ、結果として顧客を寄せ付けない企業文化を生み出します。

いくら立派な理念が壁に飾ってあっても、朝礼で唱和していても、社員の心の中では「形式的だ」「仕方なくやっている」というのでは、単なる儀式の時間でしかありません。何より、経営者自身が「心苦しく」唱和しているのでは、本末転倒もいいところです。
また、悪質な住宅リフォーム会社のケースも報道されていましたが、共通の価値観がない会社は、判断能力のない老人に高額な契約を無理矢理迫って押し込み販売を平気で行います。会社の目的が利益だけになってしまうからそういう結果を招いてしまうのです。
企業が業績目標を追求するのは当然ですが業績目標の達成プロセスに作用する共通の価値観があるかないかで結果は大きく変わります。社会的に必要とされる会社かそうでない会社になるかの境目といえるでしょう。
企業は人なりという言葉は、経営者の姿勢(創業の精神)が社員の行動に表れるという意味に私は解釈しています。
経営理念を立派な額に飾ってあっても、毎日唱和していても、心ここに在らずでは、単なる記号、単なる儀式と言われても仕方がないのではないでしょうか?
大場コンサルティングオフィス 中小企業診断士 大場 宣英
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